しらTの部屋

小学校教員としての日常や感じたことをつらつらと書き綴ります。

#63「195日目 タイムスリップの旅」

※本実践は、渡辺道治先生の学級通信を読み、追試を行ったものである。

 

3時間目の授業が始まる前。「国語の教科書とノートだけ用意しておいてね」とだけ伝えた。

チャイムが鳴り、授業が始まる。みんなで指名なし音読をした。読んだ文章は、「海のいのち」。色を使った表現が多用され、登場人物の心情や情景を巧みに描写している、物語文だ。文章量も多く、読み取りの難易度も高い、6年生ならではの文章。
誰が立って読むのか、目配せをしたり、譲り合いが起きたり。読み間違いがあっても、軽く笑いながら読み進める。和やかな雰囲気で、音読が進んでいった。

すべてを読み終えた後で、全体に告げた。
「では今から、ある場所へ移動します。教科書とノートはそのままにして、廊下に2列に並びましょう。」
並ぶのも、速い。そこにあるのは、スピード感を意識できる、最高学年の姿。
廊下を進み、階段を降りる。「あの場所ってどこ?」と、口々に話す子どもたち。連絡帳にも「どこなんだろう?」と書いている子もいた。事前の予定で、「あの場所へ行く」と書いていたので、どこかに行くことは予想していたのだろう。だがその行き先は、まだ私しか知らない。

足を止めたのは、1年3組の教室。
「えっ!ここ?」と声を上げる子どもたち。「イス、ちっさい!」と、机や椅子の大きさに驚く声も飛び交う。私は教室と同じ席に座ることを指示し、「スペシャルゲストを呼んでくるね」と言い残して教室を後にした。
一呼吸置き、心を落ち着け、私は再び教室へ戻った。

 

 

「みなさーん!こんにちはー!」
とびきりの笑顔で現れた、ハイテンションの担任を見て、キョトンとする子どもたち。

「久しぶりだね!元気にしてた?今日はみんなで国語の勉強をするよ!」

ここからは、矢継ぎ早に子どもたちの動き一つ一つをオーバーなくらいに、ほめていく。

「〇〇さんの教科書の持ち方はきれいだなあ!」

「〇〇さんの目つきには、やる気が感じられるね!」

「〇〇さんの聞く姿勢がすばらしい!」

どれも大げさなくらいにほめる。ゲラゲラ笑い転げる子どもたち。

先ほどと同じように、音読をしていった。

選んだ教材は、「スイミー」。

これから無限に広がる社会に出ていっても、子どもたちにはそれぞれの個性を発揮して、成長してほしい。そんな願いをもって、選んだ教材だ。

教室に子どもたちの元気な音読の声が響く。途中、図書室から戻ってきた「本当の」1年生たちの驚きのリアクションも楽しみながら、タイムスリップの旅は終了。再び、6年生の教室へと戻った。

 

元の教室に戻り、感想を尋ねた。

「教科書の文字が大きかった!」

「漢字がほとんどなかった!」

「机やいすが小さかった!」

子どもたちからはさまざまな感想が語られた。私からは、二つの話をした。

 

一つ目は、間違いなく全員が成長しているということ。場所の違いはあるとは言え、今よりずっと小さな机や椅子で学習していた時代があった。1年生の頃はひらがなの学習から始まったのに、今では「海のいのち」という難解な文章も、スラスラと読むことができる。ペースは違っても、みなそれぞれに成長を遂げている。そのことに、自信を持ってほしいということ。

二つ目は、教えてくれた人たちがいたということ。ひらがなも文章も、初めから読めたわけではない。読み書きを教えてくれた人がいるからこそ、今ここまで成長できている。決して自分の力だけで大きくなってきたわけではない。そのことに、感謝の気持ちを持ってほしいということ。

授業後、感想をノートに書いてもらった。

一部を紹介する。

 

私たちは、一年生でした。私たちは一年生になります。それを実感しました。何も知らなくて、何もわからない一年生になります。それが、うれしくて、少し悲しくなりました。(Mさん)



成長が、改めてとっても感じられた。机やいすが小さかったり、教科書の文字が多かったり、ページが少なかったり。
自分が通ってきた道なのに、今ではそれがありえないって思うようになってきているから、一年生に戻れてよかった。(Nさん)
 


確実に成長しているのがわかりました。机も一年生と六年生の差がすごかった。スイミーがすごく懐かしかったです。中学校に行ってもがんばります。(Yさん)
 


一年生からこんなに育ったんだなーと実感しました。一年生の教科書を見てから六年生の効果書を見ると、字が小さく見えます。一年生の先生はたくさんの意味ですごいと思いました。中学生になったら。また一年生から始めますが、6年生の経験を忘れず、がんばろうと思いました。(Mさん)